凪(yra・ピアス "calm")
私はジュエリーが好きです。とりわけ好きなのが、指輪とピアス。
飾りたてるためではなく、見守るようにそっと寄り添ってくれるデザインに惹かれます。以前は石が留まっているものが好みでしたが、ここ数年はファッションを選ばずに使える地金の気分が続いています。
特にピアスに関しては、金属アレルギー(なぜか耳のみ)を発症するようになってからというもの、気に入ったものを長く大切に使う方向へシフトしました。
個人的にお気に入りのつくり手として、yra(ヤラ)という作家さんがいます。
作品たちはどれも繊細で、静かに揺れる水面のごとく静謐な雰囲気をたたえています。誠実な手仕事からお人柄もまた伝わってきて、眺めているとゆっくりと丁寧な呼吸をしたくなる自分に気づきます。
2020年の暮れに阿佐ヶ谷のCONTEXT-S TOKYOで開かれた個展「遠くに見えるもの」でオーダーしたピアスが、先日手元へ届きました。
yraさんのことはインスタグラムで知り、初めて関東で個展をされた2019年にもピアスをお譲りいただきました。今回はふたつめです。
細い糸で丁寧にかけられたリボン。ほどくのがもったいない。
箱の表面は和紙のようなかすかな凹凸のある紙が用いられています。均一でない、ぽこぽことした手触りからはどこか温かみを感じます。もしかするとご自身でひとつひとつ貼っておられるのかも…?と思ったり。
素敵なカードも同封されていました。裏には、細やかな字で手書きのメッセージが数行添えられています。ひとつひとつの荷物にこうした心配りをされているのだなと思うと、敬意と感謝から自然と頭が下がります。
以前、私が小売業をしている頃に、研修の一環として数日間ギフトコーナーでの接客に携わったことがありました。その時に上司から教わったことで今も心に残っている言葉があります。
「ラッピングは商品だけでなく贈る人の真心を包むんだよ」
yraさんからの小さな贈り物を見て、それを思い出しました。
そっと蓋を開けると、ふわふわの羊毛にくるまれてふたつの光が眠っていました。
双子のよう。でもそれぞれ微妙に形が違います。和菓子のういろうで出来たイチョウのような、丸を4つ折りにしたデザインです。金属の光沢感と直線があいまったクールな印象の中にも、ところどころ波打つ曲線が柔らかさを感じさせます。素材の持つひんやりとしたイメージと、人肌の温度を思わせる手仕事の温かみ。yraさんの作品のこうしたバランスが、私の心をつかんで離さない所以のように思います。
恥ずかしながら着用写真も。
とても軽く、つけていてもストレスがありません。あえて残されたたわみによって、光を反射したり影を作ったりと静かに表情を変え、横顔に上品なきらめきを添えてくれます。
yraさんの作品を表すにあたって、自分の中で最もしっくりくる表現はなんだろうと考えていました。手元のピアスを眺めていて思ったのは、「ずっとそこにあったみたい」という言葉でした。ずっとそこにあったみたいに、身につけた人に寄り添い、なじんで光を返してくれる。凡庸な表現ですが、耳に留めるたびにそう思います。
そして、yraさんの作品を前にして感じるのは、祈りです。手がけるすべてに向き合い、ひとつひとつ丁寧に心を込められているのがわかります。
「作品を手にした人が喜んでくれますように」「作品が、身につける人のそばでそっと輝いて小さな灯りとなりますように」。大変勝手ながら、そんな思いを受け取った気がしました。
手仕事を通して伝わってくる真摯さや誠実さから、yraさんを思い出す時、私の頭の中ではあるメロディが流れます。
阿部芙蓉美さんの「凪」という曲です。
彼女の少し掠れたウィスパーボイスと楽曲が紡ぎ出す雰囲気もさることながら、「凪ぐ 世界で/凪ぐ 世界で/みんなのすべてが うまくいくようにと祈る」 という歌詞が、私がyraさんから受け取る美しさそのもののように思えたからです。
この曲を知ったのは、先日の個展へお邪魔するよりもっと前のことでしたが、奇しくも今回私がオーダーしたピアスの名前は「calm」というのだそうです。
(あとから気づいて驚きました。あるいは、私の脳が無意識のうちに関連性を見出してリンクさせたのかもしれません)
次にお会いすることができたら、その時は指輪を選ぼうと思っています。
inoriという作品です。私がyraさんを知るきっかけとなった指輪でもあります。(キャプションも素晴らしいので、ぜひご覧ください!)
これまではどの指にいてもらうのがいいか迷っていて二の足を踏んでいましたが、一生定位置の決まった指輪ができたことで、つけたい場所が定まりました。
今はcalmをつけながら、凪を聴く日々です。とても嬉しい。
制約の多い現在の世界において、鏡の中の自分がちょっとくたびれた顔をしていても、耳元で光るかけらを見ると、背筋を伸ばしてまた少し頑張れそうな気がしてきます。
もうひとつのpukaも含めて、私の小さなお守りです。