荒野を歩け

買ってよかったものや食べてよかったものを書いていくだけのブログです。うそです。雑記帳です。

セゾン

 ドラマチックな出来事などなくても、日常が変わる瞬間は突然訪れるものらしい。

5月も下旬を折り返そうかという頃、恋人と住まいを共にすることが決まった。

話自体は以前にもしたことがあったものの、そのときは具体的なことはなにも起きておらず、あくまで希望の範疇のなかの淡い夢語りだった。そんな調子でまだ先のことだと鷹揚に構えていたら、予想よりはるかに早く事態が動き出したため、かなり慌ただしい。

 

  ひとつのことから数珠つなぎでタスクが浮かび上がり、同時にスケジュールの逆算がはじまった。あれだけ長く感じた一週間がいまは飛ぶように過ぎる。プッチ神父のメイドインヘブンよろしく、自分をとりまく時間が加速しているような気がする。

流れに取り残されるまいと思うあまり、ある日は丑三つ時に目が覚め不要になった健康器具をやおらメルカリに出品してみたり、またある日は眠ることも忘れて効率的なクローゼット収納について考えこんだりと気ぜわしく、やや神経過敏ぎみながらも淡々と日々を過ごしている。(すっかり忘れていたが、私は心配事があると寝つきが悪くなるタチであった)

 

 部屋の内見に契約書の締結(このご時世なのでWEB面談の読み合わせスタイルだった)、ありとあらゆる寸法の計測、家具や家電の選定から価格交渉、転入手続きにかかる必要書類の確認、ライフライン開通に向けた連絡先の問い合わせ、荷づくりのための持ち物の整理…

引越しにより多岐にわたる準備が発生する事態にはじめて直面し、キャパオーバー寸前の私をよそに、恋人はいつもと変わらず涼しい顔をしている。(のんびりしているだけかもしれない)

 不運なことに、このたび人生初の交通事故まで貰ってしまった。おかげさまで本人は傷ひとつないが、年季の入りまくったマイカーは廃車時期が1年余り繰り上げになりそうである。

私の場合、車は必要に迫られて乗っていただけでさして愛着はなかった。(いよいよ車が不憫)

幸か不幸か今回の引越しで御役御免になりそうなので、新たに自転車を買おうかと思っている。

 

 寝つきが悪くなるほど考えこむと書いたが、それは裏を返せば、次にはじまる暮らしが楽しみである証左にちがいない。

(ロマンチックが過ぎるが)思えば私は長いこと「またね」のいらない関係性を望んできたのだ。

いまの恋人は部屋へ遊びに行くたび、おかえりと言ってくれる。とても自然でどうにも些末で、本人は気にも留めていないようだけれど、私にとっては胸の底をあたためるひとことだった。

 

 新しい生活は、勝手がつかめるまでは手探りで進むことになるのだろう。うまくいかないこともきっと(多々)ある。それでも、失敗を恐れずにいたいと思う。

 

 余計な力を抜いて、焦ることなく、ひとつひとつ暮らしを身体にしみこませていきたい。そして振り返ったとき、日常になったことを嬉しく感じられたら最高だ。

冷蔵庫の床に敷くへこみ防止マットについて検索しながら、そんなことを考えている。